プロデュース企画 2021|EP.2 上野耕平 レッスン①
「一種類の良い音」から抜け出す ── 上野耕平が高校生に見せた、音色で音楽を語る世界
2022年1月、浜離宮朝日ホールでのコンサート共演に向けたプロデュース企画。その第1回レッスンを担当した上野耕平が、高校2年生の米山くんに説いたのは「ノンビブラートで、音色だけで音楽を変える」という奏法の核心だった。リードの振動、息の送り方、長調と短調の吹き分け ── プロになるために避けて通れない一線を示した一回の記録。
初めての個人レッスン ── 「音色を盗みたい」
プロデュース企画の記念すべき第1回レッスン。担当は上野耕平。受講生の米山くんは高校2年生で、初めての個人レッスンに「昨日の夜から緊張している」と語る。何を自分のものにしたいか、という問いへの答えは明確だった ── 「何より音色。パッと吹いたときの音がすごく好き」。
一方の上野は、レッスン前のインタビューで、共演に向けて米山くんに求めるものをこう表現した。
[3:07]「技術というより、その爪痕を残してほしいですね。どんなフレーズを吹いても、どんな簡単なパッセージでも爪痕を残す。爪痕を残すというのは、音楽的に説得できる、意味のある音を出すということ」
今回の課題 ── フェルリング48エチュードより5番・6番
米山くんが持参したのは、フェルリング48エチュードの5番と6番。まずは通して演奏する。聴き終えた上野の第一声は「上手じゃない?」── そして「合格」と告げた上で、ここから本質的な指摘が始まる。
「綺麗だが、スケールが小さい」── リードの選択
米山くんが使っていたのはバンドーレン青箱の3番。上野はリードそのものを否定はしないが、その演奏の「届く範囲」に課題を見た。
[5:14]「この部屋だとちょうどいいんだけど、広いホールで行くことになると何にも伝わらないんですね、リードが薄い。確かにすごく綺麗な、ものすごく綺麗に整えて吹けてるんですね。でもそのスケールがものすごく小さいんです」
整った綺麗な音と、ホールの隅々まで届く音は別物。共演の舞台は広いホールである ── その前提から、上野は奏法の根本に踏み込んでいく。
ブレスの仕方 ── 口の中を開けて吸う
技術面でまず指摘されたのは、息の吸い方だった。マウスピースを咥えたまま、口の形を変えずに吸おうとすると、息の入るスペースが少ない。
[5:14]「舌、開けてごらん。もっと、そうそう、それぐらい開けたら、めっちゃ一瞬で吸えるんだよ」
口の中(喉の奥)を開いて吸うことで、短時間で多くの息が入る。さらに上野は、吸うときの「シーッ」という音についても注意を促す ── その雑音は「音楽的にとっても邪魔」だと。
リードの振動を「殺さない」
上野のレッスンの中心にあるのは、「音を鳴らしているのはリードである」という原理だった。
[6:42]「どうして音が鳴るの? リードが振動するの? 息を流してリードが振動して、その振動が音が響くの。ただそれだけなんですよ。だからしっかりいい息を送るっていうのがまず大前提。その次、リードを効率よく振動させるっていうのが、これ何よりも大事」
振動するのはリードであって、奏者自身は振動しない。だからこそ「リードの振動を殺さないこと」が大事になる。リードを下から潰すような力のかけ方は、その振動を妨げてしまう。
[7:46]「自分がどう力を加えたらどうリードの振動が変化して、どう音に反映されるかっていうのは、もっと神経質にとらないと。そうすると練習の効率、5倍ぐらいに上がるから」
ただ吹くのではなく、力のかけ方と振動と音の関係に意識を向ける ── それだけで上達の速度は大きく変わる、というのが上野の主張である。
長調と短調を「音色」で吹き分ける
レッスンは音色の話へと進む。課題曲には長調(Dur)から短調(Moll)へ移る箇所があった。上野は、この2つを同じ音で吹いてはいけないと説く。
[10:01]「Dur と Moll って、出すべき音、リードの振動、息が全く異なるわけですよね。Dur の吹き方のままそのままいったら……でも、ちゃんと Moll の音にする。Moll になるんだって、めっちゃ強く思ってもらう」
上野は、レの音を伸ばしたまま合図で長調から短調へ「色」を変える練習を示す。音程をほとんど変えずに音色だけを変える ── それができるようになると、今度は音量の変化にもつながっていく。同じ「レ」でも、聴き手に与える印象を変えられる、という感覚である。
「一種類の良い音」では、プロになれない
この日の核心は、ここに集約されている。
[13:21]「一種類の良い音しか知らなかったというね。高校生だと、まあ俺もそうだったんだけど。人間が吹くということは、それがなければいけない。その微妙なさじ加減で、聞き手に与える印象を変えるっていうのは、これなんですよ。これを一番大事にしてほしい」
上野は、この日の指摘がすべてノンビブラートの範囲での話であることを強調する。ビブラートに頼る前に、息の入れ方とリードの振動だけで音色を変え、音楽を作れること ── それがプロの最低条件だと断言した。
ビブラートは「無限の種類」がある
ビブラートそのものについても、上野は持論を述べた。サクソフォンには「テンポ72で4つ入れましょう」といった画一的な教育が古くからあるが、それを曲の中でずっと続けたらどうなるか ── 終始同じビブラートになってしまう。
[13:21]「ずっと同じビブラートだね、勘弁してくれ、でしょ。だったらコンピューターに吹かしといたほうがいい。そうではなくて、その曲と場面に応じた音色」
ビブラートには無限の種類がある。だがそれは先の話 ── まずはノンビブラートで、音色だけで音楽を語れるようになること。それが今回のレッスンの一貫した主題だった。
受講生の振り返り ── 「自分の世界が狭かった」
1時間半におよぶレッスンを終え、米山くんはこう語った。
[22:07]「今までは、ただ楽器を吹いているだけだったなって思って。もっと1個の音でもいろんな音を出さなきゃいけないのに、1個の音しか出していないし、頭の中にも今まで1個の音しかなかった」
「練習内容を、根本的に考え方から変えなきゃいけない」── そう語る米山くんに、上野は最後にこう言い添えた。今日伝えたことを鵜呑みにする必要はない。この後に続く他のメンバーのレッスンも含め、自分に必要だと思うものを取捨選択していくこと。その選択もまた、センスなのだと。
※ この記事は、YouTube で公開されているレッスン動画の内容をもとにAIが編集・再構成したものです。発言は読みやすく整えており、固有名詞や表現が実際と異なる場合があります。正確な内容・ニュアンスは動画でご確認ください。



